Roll.1 アリアナ・グランデ『pov』歌詞考察、または呪いからの解放について
恋人の薬物中毒の末の死、マンチェスター単独公演の爆弾テロ。そんなあまりに過酷な試練にぶつかりながら、一年ごとに新作アルバムをリリースしてきたアリアナ・グランデ。元々定評あった伸びやかな高音に、20代中盤に差し掛かりミッドレンジの艶やかさを増した歌声をディープにソウルフルに聴かせる甘くほろ苦い2018年『Sweetener』、多様なビートを自在に乗りこなす抜群のリズムを体得してヴァラエティ豊かに聴かせる2019年『thank u, next』に続く2020年『Positions』。
タイトルはダブル・ミーニングになっていて、ひとつはこの年に行われた大統領選挙に向けた、あまりに大きな退化の4年間を招いた「トランプのアメリカ」からの政権交代。それはホワイト・ハウスを舞台に男女、トランス、黒人白人アジア人が混じった政権チームを束ねて執務と家事を両立させる大統領をアリアナ・グランデが演じるという、大統領選挙投票の10日前のタイミングでシェアされたリード・トラック『Positions』のミュージック・ヴィデオに顕著だ。
もうひとつは、性行為における体位。男性優位でも女性優位でもない、対等な関係としてベッドを共に、攻守がシームレスに入れ替わる関係性。チャームも欲望も何ひとつ放棄したり隠したりする事なく限りある人生を謳歌しよう、という女性の解放運動としての正統なフェミニズム、フェミニズムとしてメッセージを発してきたアリアナの美しい到達点として、アルバム全編に効果的に配されたストリングスの耽美で官能的な響きと合わさって、とても強いパワーを放っている。
日曜日はお行儀よくあなたのママに会いにいく月曜日は思いっきり愛し合いましょう
『positions』
ずっと起きていて一晩中私を突き続けて
『34+35』
最高をあげる常識を捨てて身を任せて
今夜はめちゃくちゃにしたい
『nasty』
攻と守、公と私、好と嫌、生と死。どちらも決して避けられない、共存している世界、社会を描く『positions』が、「君の瞳から見える私はどんなふうに見えるんだろう?」と寄せて返すさざ波のようなメロディで歌われる『pov』でクローズされるのはとても率直で誠実な態度だ。
君が見るみたいに自分を見たい。君が信じてくれるみたいに自分を信じたい。
例えば愛し抱き合うベッドの上で、相手の瞳に映り込んだ自分を見た時の感情を手離していない人なら、14曲41分を経て辿り着いたこのリフレインに心奪われずにはいられないはず。
「彼女にはどんなふうに、この世界が見えているんだろう」
2021年5月1日にシェアされた、『pov』のLyric Video。黒人と白人のゲイ・カップルが陽光降り注ぐなかで触れ合い、踊る。愛すること、心を通わすこと、触れ合うことの喜びと痛みが表象された映像は、とても美しく生命の営みを肯定している。
pov
Ariana Grande
It's like you got superpowers
Turn my minutes into hours
You got more than 20/20, babe
Made of glass, the way you see through me
You know me better than I do
Can't seem to keep nothing from you
How you touch my soul from the outside
Permeate my ego and my pride
I wanna love me
The way that you love me
Ooh, for all of my pretty and all of my ugly too
I'd love to see me from your point of view
I wanna trust me
The way that you trust me
Ooh, 'cause nobody ever loved me like you do
I'd love to see me from your point of view
I'm getting used to receiving
Still getting good at not leaving
I'ma love you even though I'm scared
Learnin' to be grateful for myself
You love my lips 'cause they say the
Things we've always been afraid of
I can feel it startin' to subside
Learnin' to believe in what is mine
I wanna love me
The way that you love me
Ooh, for all of my pretty and all of my ugly too
I'd love to see me from your point of view
I wanna trust me
The way that you trust me
Ooh, 'cause nobody ever loved me like you do
I'd love to see me from your point of view
I couldn't believe it or see it for myself
Know I be impatient
But now I'm out here, fallin'
Frozen, slowly thawing, got me right
I won't keep you waitin'
All my baggage fadin' safely
And if my eyes deceive me
Won't let them stray too far away
I wanna love me
The way that you love me
Ooh, for all of my pretty and all of my ugly too
I'd love to see me from your point of view
I wanna trust me
The way that you trust me
'Cause nobody ever loved me like you do
I'd love to see me from your point of view
君には特殊能力があるみたい
1分間を1時間にしてくれる
ずっと一緒にいてほしい
ガラスの瞳で見つめてほしい
私より私を知っている
君に隠し事なんて出来そうになくて
どうして心の場所がわかるの
してほしいこと言ってほしいことがわかるの
君が愛してくれるみたいに
自分自身を愛したい
美しさも醜さもひっくるめて
君の瞳から私を見てみたい
君が信じてくれるみたいに
自分自身を信じたい
こんなふうに愛されたことなんてなかった
君の瞳から私を見てみたい
立ち直ったように思えても
まだ回復の途中だから
愛すると同時に怖くなる
自分を誇れるようになりたい
そんな言葉が溢れてしまう
私の唇のことも君は愛してくれる
心が静まるのを感じる
自分を信じ始めてる
君が愛してくれるみたいに
自分自身を愛したい
美しさも醜さもひっくるめて
君の瞳から私を見てみたい
君が信じてくれるみたいに
自分自身を信じたい
こんなふうに愛されたことなんてなかった
君の瞳から私を見てみたい
信じることも見つめることも出来なかった
とても耐えられなかった
だけど今降り積もった雪は
凍り溶けて水になっていく
もう待たせはしない
背負った荷物は軽くなっていく
私の瞳が私を欺こうとしても
心は迷ったりしない
君が愛してくれるみたいに
自分自身を愛したい
美しさも醜さもひっくるめて
君の瞳から私を見てみたい
君が信じてくれるみたいに
自分自身を信じたい
こんなふうに愛されたことなんてなかった
君の瞳から私を見てみたい